デス・オーバチュア
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ただ自由だけを望んだ。 支配統治するということは同時にいくつものしがらみに支配されることになる。 それならば、私は誰も何も支配しない。 その代わり、私は誰の支配も、一切の支配を受け入れない。 自由気ままに、好き勝手に、どこまでも自堕落に生きてやる。 私を支配するのは唯一つの掟だけ。 もはや守る必要のない皇家の掟だが、私は自分の意志でその掟だけは守ることにする。 望んで自らに与える唯一つの枷、制約であり誓約だ。 「がははははははははははっ!」 ゲブラーは名乗りも、相手が何者なのかも尋ねず、問答無用でリーヴに殴りかかった。 リーヴは僅かに体を揺らすようにして拳をかわす。 リーヴの横を凄まじい風圧が通り過ぎ、背後の壁に巨大な大穴を穿った。 「どらどらどらどらああっ!」 ゲブラーは続けざまに拳を繰り出し続ける。 リーヴは拳の巻き起こす風圧に逆らわず、風に舞う羽毛のように、ひらりひらりと拳を全てかわしていた。 「てめぇぇ……おらおらおらおらおらららあっ!」 ゲブラーはムキになったように拳のスピードを速める。 だが、ゲブラーの拳は一発たりともリーヴに命中することはなかった。 「なるほど、貴様は強い……ゆえに、弱い」 リーヴは哀れむように呟くと、瞳を閉ざす。 「てめええぇぇっ!」 ゲブラーは怒りも露わに、渾身の一撃を放った。 大気が弾け飛ぶ。 爆発するような衝撃波が、周囲の壁や天井を消し飛ばした。 「がはははははははははっ! 肉片一つ残さず消し飛びやがった!」 ただの拳の一撃、それすらも拳の巻き起こす風圧と衝撃波、溢れ出す闘気で、全てを爆砕する必殺の一撃と化すのである。 「なるほど、本当に見事な馬鹿力だ」 声はゲブラーの背後からした。 「あっ!?」 ゲブラーが振り返ると、何事もなかったように平然と立っているリーヴの姿が視界に映る。 しかも、リーヴは瞳すら閉じたままだった。 「貴様の拳は激しすぎる……巻き起こす拳風で私の体はすでに流れてしまい、拳本体が私に届くことすらない」 「ああん!? ざけんなっ! 普通は俺様の拳の衝撃だけで人間なんて跡形もなく消し飛ぶんだよっ!」 「それは相手が力の流れに逆らうからだ。風圧も衝撃も全て、流れる水のように、風に舞う木葉のように、力の流れに逆らわず受け流す……聖皇柔拳(せいおうじゅうけん)の初歩の初歩だ」 リーヴは風で乱れた髪を手串で整えながら、自慢するでもなく淡々と言う。 「何が聖皇柔拳だっ! ざけんじゃねぇぇっ!」 「もっとも、私は柔拳は苦手でな」 リーヴは再び殴りかかってきたゲブラーの拳を、ひらりとかわした。 「だりゃあああっ!」 ゲブラーが渾身の右の直拳を放つと同時に、リーヴの体は自ら宙に舞う。 ゲブラーの拳が伸びきる瞬間、リーヴは右手一本でゲブラーの頭上で倒立していた。 「聖皇柔拳……紅染流転(こうせんるてん)……」 凄まじい音がしたかと思うと、リーヴは片手倒立前転し、地上に着地する。 「……こういった技は妹の方が得意なのだ……」 ゲブラーの顔は、リーヴに背中を向けたまま、彼女を凝視していた。 「て、て……てめ……ぇ……」 ゲブラーの首は180度回転していたのである。 「ああ、やはりまだ生きているのか? 妹だったら首を360度以上回して、ねじ切るのだがな……どうも私はこの手の軽やかな技は上手くいかん」 「ぐっ……ご……ぎぃ……」 ゲブラーは自分の頭部を両手で掴むと、無理矢理前方に……本来の定位置にまで回していった。 「て……てめぇ、ふざけた真似をしやがって……」 「私はもっと単純な力技が好きだ……」 「へっ! 気が合うじゃねえか……よおおおっ!」 ゲブラーはいきなり拳で地面を殴りつける。 激震と共に石の床に亀裂が走り、リーヴに向かっていった。 反射的にリーヴが宙に逃れる。 「かかりやがったなっ! 空中でかわせるものならかわしてみやがれ!」 ゲブラーの体中から黄色の光が溢れ出した。 「消し飛びやがれ!」 ゲブラーが右拳を突き出すと、黄色光が拳から凄まじい勢いと速さでリーヴに向かって解き放たれる。 「闘気拳か……」 背に翼でもなければ、絶対に回避不能なタイミングだった。 リーブは何を思ったのか、両手を下におろし、完全な無防備体勢になる。 そして、黄色光がリーヴに激突し、中空を黄色光の爆発が染め上げた。 「がははははははははははっ! 口ほどにもない奴だぜっ!」 ゲブラーが勝ち誇った笑い声を上げる。 ゲブラーの今までの攻撃の余波で周囲は無惨に破壊尽くされていた。 「がはははははっ! 俺様が得物や真の力を出すまでもねえ! どんな拳法の達人だか知らねえが所詮はただの人間だったな!」 ゲブラーの声だけで、周囲の大気が震える。 「ふむ、ではぜひ見せてもらいたいものだな……その得物と真の力というのを……」 「なあぁっ!?」 声のする方に視線を向けると、無傷のリーヴが立っていた。 「て、てめえ……あれをかわしたってのか……?」 「いや、直撃だったさ。ただ単にあの程度の威力では私にダメージを与えることができなかった……それだけの話だ」 「なっ……」 そんな馬鹿な話があるか? 消し飛ばなかっただけでも信じられないのに、かすり傷一つないなどと……。 「どうした? まだまだ切り札が、奥の手があるのだろう? それとも見せる前に散るか?」 「あああっ!?」 ゲブラーは気づいた。 この女はまだ一度も攻撃をしていない。 わざと攻撃をせずに、ゲブラーに一方的に攻撃をさせていたのだ。 ゲブラーに隙がなくて攻撃できないのではない、ゲブラーが能力を出し切る前に、うっかり倒してしまわないように、わざと防戦に徹しているのである。 「てめえって奴はどこまで俺様をコケにしやがる!」 ゲブラーは怒りをぶつけるように、床を思いっきり踏みつけた。 直後、地震のような振動が周囲に走る。 「ああ、解ったぜ! 見せてやらあっ! 俺様の力の全てをっ!」 「それは楽しみだ」 「あああああああっ! 来やがれっ! 大戦鬼(だいせんき)!」 ゲブラーが叫んだ直後、壁をぶち抜いて、巨大な何かが飛来し、ゲブラーの眼前に突き刺さった。 それは巨大な、巨大すぎる大斧……真っ赤な戦斧である。 「……てめえは……素手でいいのかよ?」 ゲブラーは普通の大斧の倍、6メートル、10キロは余裕でありそうな規格外の戦斧を片手で持ち上げた。 「無問題だ」 リーヴはそう答えると、挑発するように手招きする。 「上等だ! あの世で後悔しやがれっ!」 一閃。 文字通り赤い閃光が迸った。 いつのまにかゲブラーは両手で持った戦斧を横に振り終わっており、前方の壁が一文字に両断されている。 「けっ、やっぱりかわしやがるか」 もし、リーブがその場に立ったままでいたら、壁ごとリーヴの体は真っ二つにされていたに違いなかった。 「なるほど、貴様の場合、普通の大斧では軽すぎて、振り回した時、余った力と衝撃が己に返ってしまう……ゆえに、その化け物の斧の方が丁度良いというわけか……」 リーヴの姿はいつのまにかゲブラーの背後に移動している。 「冷静に観察してんじゃねえよ! 俺様の真価はこいつで終わりじゃねえぜっ! よく見ていやがれっ!」 ゲブラーはリーヴと向き合った。 ゲブラーの体中から再び黄色の光が溢れ出し、荒れ狂う。 そして、黄色の光は徐々に青白い光に変色していった。 「……神の領域の闘気……繰り返す戦いと自己鍛錬の末にそこまで辿り着くとは……確かに、貴様は人間としては究極の存在かもしれぬな……」 「はっ! いまさら誉めたって、手加減はしねえよ! 跡形もなく消し飛びやがれっ!」 神の域に達した白き闘気はゲブラーの振りかぶった戦斧に集束していく。 「跡形もなく砕け散りやがれ! 神すら凌駕する我が鉄槌! ゴォォッドクラッシャァァァッー!」 解き放たれた白き閃光の鉄槌がリーヴに向かって振り下ろされた。 「見事だった」 「なっ…………」 ゲブラーは言葉を失う。 最高の純度、最大量にまで高め、集めた闘気による神の一撃たる戦斧が、リーヴの左手一つで受け止められていた。 「貴様の闘気の質は限りなく神闘気に近い、人間でありながらよくここまで到達した……素直に賛辞を送ろう」 リーヴの左手首で止められている戦斧の刃に亀裂が走る。 よく見ると、戦斧はリーヴに届いていなかった。 いつのまにかリーヴの全身から溢れだしている白い闘気の薄皮で遮られているのである。 「てめぇも……俺様と同じ闘気がっ!?」 「少しだけ違う。貴様のは気の錬成を繰り返した末の純度80〜90%ぐらいの神の気だが、私のは天然の……生まれながらも純度100%の神の気……神闘気だ」 「神闘気……」 「貴様は頑張った。人を超え、限りなく『神』に近づいた……だが……」 「だが? だが、なんだってんだよっ!?」 「人は決して神にはなれない、人は神を超えられない!」 戦斧の刃が弾けるように粉々に砕け散った。 「見ろ汝が破滅の光……」 リーヴが右手を突き出す。 「聖皇閃(せいおうせん)!」 右掌から放たれた白い閃光がゲブラーを呑み尽くした。 白き閃光が消え、訪れる静寂。 肉片一切れ、髪の毛一本、いや、細胞一つ残らず、ゲブラー・カマエルは白い閃光の彼方に消滅した。 「ガルディアは地上の神……人は神には勝てないのだよ……」 リーヴは勝利を誇るのではなく、寧ろ物悲しげに呟く。 体を覆っていた白い闘気が完全に消えると、リーブは軽く息を吐いた。 「少し疲れてきたか?……気安く神闘気を使いすぎかもしれんな」 先程からの二連続の戦闘はともかく、壁を破壊して進むのに使ったのは無駄が過ぎたかもしれない。 神闘気は普通の闘気とは次元違いの力を持つ気だが、その分、精神や体力の消耗や体にかかる負担も凄まじいのだ。 リーヴのような爛れた生活で鈍った体の場合、神気発勁(しんきはっけい)……神闘気の使用はあくまで短時間に抑えなければならない。 「さて、これ以上、無駄な戦闘は遠慮したい……さっさと、目的地に……」 リーヴが歩き出そうとした瞬間だった。 「っ…!」 突然、背後に生まれた殺気に、リーブが体を横にずらす。 骨の折れる鈍い音が生まれた。 リーブの右腕が、その存在する空間ごと螺旋(ねじ)折られたのである。 「……痛いではないか……不意打ちなら、相手に痛みも、恐怖を感じる間も与えず一撃で仕留めろ……それが暗殺者の優しさとい言うものだ」 リーヴは折れた右腕をぶらぶらとさせながら、落ち着いた表情で、背後からの襲撃者に話しかけた。 「……それは失礼した。未熟者なのでご容赦願おう……」 悪びれた様子もなく、襲撃者は答える。 襲撃者の正体は、顔上半部を仮面で隠した黒衣の男ホド・ニルカーラ・ラファエルだった。 粉々にされたはずの胴体も健在である。 「ふむ、獣人や吸血鬼でもあそこまで破壊すれば簡単には再生しないのだが……まして、神闘気は不死者系の再生力を滅する効果もあるしな」 「……私を獣臭い獣人や死臭漂う不死者などと一緒にされては困る……」 不本意だといった感じでホドは言った。 「私は真に永遠不滅の存在……ミーティア様をお守りするため、アクセル様のお役に立つためなら、何度でも死界より舞い戻ろう!」 ホドは宙を滑空し、リーヴに襲いかかる。 「しつこい男は好かれぬぞ!」 神気発勁、一瞬にしてリーヴの体が白い闘気で包まれた。 ホドの突きだした左手を正面から胸で受け止める。 ホドはねじ切ろうとするが、神闘気と、神闘気の存在する空間は微動だにしなかった。 「やはり無理か……なんという恐ろしい闘気、まるでアクセル様の魔……」 「聖皇拳(せいおうけん)!」 リーヴは神闘気を集中させた右拳を放つ。 前と同じように、ホドの体が粉々に粉砕された。 舞い散るホドの破片。 今回は原型をとどめていたのは頭部ぐらいだった。 「…………」 リーヴは床に転がるホドの生首を無言で見つめる。 「二度同じ不意打ちは通用しない……さっさと元に戻ったらどうだ?」 リーヴが冷淡にそう言うと、ホドの生首の口元が微かに笑った。 ホドの生首が空高く舞い上がると、それを追うように、無数の破片達も浮かび上がっていく。 そして、無数の破片が集まり、凝縮され、アッと言う間に元通りのホドが存在していた。 「……なるほどな、確かにそれは『再生』ではないな……納得いった」 「何度でも私を破壊するといい……私の力は貴方の神闘気の前には無力だが……貴方の神闘気も無限ではない……だが、私は不滅、無限に蘇り続ける存在……先に力尽きるのは貴方だ!」 ホドが再び滑空して襲いかかってくる。 「っ!」 リーヴが左手を微かに振った。 目に見えない不可視の糸の斬撃。 だが、ホドは自由自在に宙を滑空し、その全てをかわしながら、リーヴに肉迫した。 「……螺旋勁(らせんけい)……」 ホドは回転させた手刀を突き出す。 触れた物全てを空間ごとねじ切るホドの基本技にして必殺技である一撃だった。 「くっ、聖皇拳!」 圧縮された白い闘気を纏う拳がホドの手刀の先端と激突する。 リーヴの拳はホドの腕を破壊しながら、彼の肩を目指して駆け上っていった。 左腕を完全に破壊されながらも、ホドは残った右腕で反撃の一撃をすかさず放つ。 リーヴの左腕は伸びきっており、第二撃は打てず、神闘気は拳に集中しているため、ホドの一撃は無防備な体を貫けるはずだった。 ホドの右手がリーヴの左胸に触れ、衣服がねじ破かれ、そのまま彼女の胸を貫こうとした瞬間、 「気安く私の肌に触れるなっ!」 青い光線がリーヴの左胸から放たれ、ホドの左手を消し飛ばす。 「なっ……」 破られた衣服から覗く左の乳房の上に青い薔薇の刻印が浮かび上がっていた。 「悪かったな、ついムキになった……」 口では謝罪を述べながら、リーヴは今までとは比べ物にならない冷たい眼差しをホドに向ける。 「だが、お前が悪い。お前は私の『肌』に触れた……そして、この刻印を見た……それがどれだけの罪が知るがいい!」 リーヴの体中から神闘気が逆流する大滝のように立ち登った。 「お前の不滅の秘密はもう解っている……人形師としての切り札で地味に倒してやろうと思っていたが……気が変わった!」 リーヴは左手の甲をホドに見せつけるように突き出す。 甲に青い奇妙な紋章が浮かび上がる。 「お前には人形師の切り札ではなく、リーヴ・ガルディアの切り札の中の奥の手、最大最強の一撃をくれてやる……」 「ぐっ……」 ホドはリーヴの怒りの気迫に威圧されたように動けなかった。 なぜ、彼女が急にこんな感情むき出しにして怒り狂っているのか理解できない。 肌を……胸を見たから? あの青い薔薇の刻印が何だというのだ? 「まずは……」 神闘気が折れたはずの右腕に集まっていくと、信じられないことに折れているはずの右腕が振り上げられた。 「なっ!?」 「驚くことはない。普段攻撃のための神気を癒しのための気に切り替えただけだ。神気を集中すれば、骨折どころか、無くなった腕さえ生えてくる……」 「ば、化け物か……ガルディア皇族というのは……」 「このくらい容易くできなくて、地上の神を名乗れるかっ!」 蘇った右腕が振り下ろされた瞬間、ホドの体が吹き飛ばされ、壁に張り付けにされる。 「……体が……動か……ぐっ……!?」 「それはこの前、吸血鬼とやった時に使い損なった人形師としての切り札……見えない『針』だ……威力は文字通りで針で刺す程度でしかないが……一度切りなら最高の不意打ちとして使える……それで、貴様の不滅の弱点を貫いて倒しても良かった……最初はそのつもりだった……」 「……ぐっ!?」 ホドは驚愕した。 透明な針にではなく、自分の不滅の肉体の正体を見抜かれたことにである。 ハッタリには思えなかった。 いまのあの女にハッタリなど言う必要ないのだから。 「そして、これが……」 リーヴの左手の紋章から青い光が飛び出し、一振りの剣の姿を形成した。 空の青さを固めたような、美しく輝く青一色の両刃剣。 「これがリーヴ・ガルディアの切り札……天空剣……スカイバスター(天空の撲滅者)……」 「……十神剣だと……?」 「そうだ、私がガルディアを出奔する際、唯一持ち出したガルディア三大秘宝の一つだ」 天空剣が自ら青い輝きを発した。 「貴様の弱点……いや、本体である仮面を破壊するためなら、本来こんなものは必要ない。針一本で事は足りた……」 「ぐっ……」 正解である。 ホド・ニルカーラ・ラファエルの不滅の秘密、それは……。 「私は人形師だぞ。あれだけ何度も貴様を破壊すれば、貴様が人形……それも、機械人形とも私の創る生きた人形達とも違う、正真正銘のただのビスクドール(磁器人形)……普通の人形でできてることぐらい解るさ」 「くっ……その通りだ……私はアクセル様がミーティア様を守るために創った守護人形に過ぎない……」 「だが、普通のビスクドールは動かないし、喋らない、何より意志など持たない。意志を持たせるには魂を宿らせるしかない……私の創る人形のようにな。だが、貴様の体からはそういった魂や魔力を一切感じない……となれば、魂を宿らせているのは、貴様が被っている仮面しか考えられまい。破壊される際も、顔面だけは狙われないようにしていたしな……」 「……全て正解だ……」 「不滅なのはあくまでその人形の体だけ、仮面を一度でも破壊されれば、貴様はそれで終わりだ……」 リーヴは天空剣を両手で持つと、大上段に構えた。 「では、そろそろお別れだ……貴様は私の切り札である天空剣の奥の手……つまり最大最強の技で葬ってやる……それが私を辱めた貴様への罰だ!」 ホドはようやく理解する。 自分は、皇女の腕を折ったからでも、殺そうとしたからでもなく、肌を見て触ってしまった罪により、神罰を下されるのだということが……。 「私の肌……特にこのガルディアの刻印を見て生きてる男など居てはいけないのだ……こればかりは掟だからではなく、私自身が耐えられないのだ……」 リーヴの体中から放たれる神闘気が瞬間的に数倍に跳ね上がる。 「秘剣! 断空牙(だんくうが)!」 リーヴは迷うことなく天空剣を振り下ろし、ホドを一刀両断にした。 それは奇妙な現象だった。 天が真っ二つに割れている? ホドが居た『空間』に巨大な縦一文字の『傷』ができていたのだ。 縦に両断され、さらにその直後、粉々に砕け散ったホドの破片が、その空間の傷の中に吸い込まれて消えていく。 「断空牙は天空を……空間ごと相手を両断する秘剣だ……ゆえに、この世で斬れぬ物は存在しない。例え、貴様がオリハルコンや神柱石でできた人形だったとしても結果は変わらない……」 さらに、断空牙はただ相手を両断するだけではなく、もし相手が両断されてもなお生きていたとしても、断ち切られた空……空間の断層に相手を吸い込み滅する追加効果まであった。 「……もういいな……閉じろ!」 リーヴが天空剣を突きつけると、空間の断層が一気に閉じ、元通りの空間が姿を見せる。 「……それにしても、いくら逆上していたとはいえ、まさにこれ以上ない力の無駄使いをしてしまった……」 弱点が解った時点で、針一本投げるだけで済んだのに……最大最強……つまりもっとも消耗する技を使う羽目になってしまった。 「お前も無駄に呼び出して済まなかったな……」 リーヴは相棒たる神剣に謝罪すると、神剣を青い光に戻し左手の紋章の中に消し去る。 「まあ、仕方あるまい。私の肌に触れて……私の刻印を見て生きていていい男はこの世で唯一人だけだ」 刻印を見た男は必ず殺す。 殺さないということは、その相手を生涯愛する唯一人の相手と認めたということだ。 その一人はもうすでに決まっている。 夫でも、恋人ですらないけど……その男だけを生涯愛すると決めた。 「両想いでなくて良いのがポイントだな……」 きっとあの男が自分を愛するようになるなどという未来は絶対に訪れないだろう。 それでも別にいいのだ。 勝手に自分だけが想い、愛し続ければ、操を守り続ければいいのだから。 「……まあ、殺せない以上、愛するしかあるまい」 殺せないのか、殺したくないのか……ゴチャゴチャと小難しく考える気はなかった。 色恋に悩むなんて……そんな面倒臭い。 悩むよりも割り切って、最大限楽しんだ方がいいに決まっている。 そもそも、国を捨てた時点で掟は破りたければ破っていいのだ。 あくまで自分の意志で自分を掟で縛っているのである。 掟の方が口実なのかもしれなかった……あんな最悪な男を愛するための……。 「いい加減、腹も空いてきた、さっさと用を済ませて帰るか」 リーヴは服の破かれた部分の裁縫を終えると、再び通路を歩み始めた。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |